騎士達が来てからは、速かった。

魔物達を一掃させ、被害にあった場所の修復、人々への治療。




もリフィルに治してもらい、ようやく動けるようになった。





「どう?」
「うん、もう大丈夫。ありがとう」







「あの…」





達にかけられた声は女性のもの、振り返れば先程が庇った女の子を連れた女性がいた。



「有難うございます…。この子を助けて頂いて」
「おにいちゃん、ありがとお!」


深々と頭を下げる母親と、笑顔でに礼を言う女の子。


「どういたしまして。もうお母さんと逸れちゃ駄目だよ」
「うん!」




自分が代わりに傷付いたと言うのに、もう笑っているに呆れ半分で溜息を吐くジェイ。
けれどそういう人柄なのを解っているから、何も言わない。

恐らくやめろと言って聞くようなタイプじゃないし、命を丸投げにしてまで人を助けに行くような人でもないことは解っている。
助けるなら、自分の命を懸けるのではなく自分と相手の両方を守る人だから。










「民を守ってくれていたのは貴殿らか」




騎士の一人が達に近づいて来た。
兜を取り外し、頭を垂れる。



「すまない。協力感謝する」



金髪をサラリと風になびかせ、笑顔を浮かべる青年。
騎士達に命令を出していたのもこの青年、と言うことは部隊長だろう。




「私はブルーローザ軍第一部隊隊長、ミルハウスト・セルカークという。貴殿らの名を尋ねても?」

「オレは
「ジェイと申します」
「リフィルよ。この街はこんな風に魔物が入ってくる事があるのかしら?」


「…いや、それは……」
「??」



言い辛そうに口を噤むミルハウスト。
その様子に何かあるとリフィルは悟る。


















「言ってやれば良いじゃない。魔物は入ってくるんじゃないって」








「!!……サレ」














紫色の髪をかきあげながら佇む青年。
他の騎士達と違い、鎧は纏ってはいないがミルハウストと同じくブルーローザ軍の者のようだ。




「“入ってくるんじゃない”とは?」
「そういう意味さ。外からの侵入なら馬鹿でも気付く。けれどいつの間にか街中に魔物はいるんだ」
「…最初から街に魔物がいると言う事?もしくは誰か手引きをしている者がいる」
「そういうことさ。だから魔物の出現まで何も対処が出来ないのさ。精々見回りするくらい」




「サレ、軽々しく口にして良いことではないぞ」
「僕は口にしていないよ?ヒントをあげただけさ」




ミルハウストに注意されても、改める様子は見られないサレ。
タメ口で話しているということは階級はミルハウストと同等なのだろう。




はサレの声が先程自分を助けてくれた声と同じものだと気付く。




「あ、あの」
「ん?」

「さっきは助けてくれて有難うございました」
「――…ああ、当たらなかったんだ」
「は?」




「僕適当に狙ったから。良かったね、魔術に巻き込まれなくて」





つまり、魔物だけを狙ったわけじゃなく魔物のいる辺りを狙っただけだとサレは言う。
その近くにいたや女の子に当たろうが当たるまいがどうでも良かったと。





「サレ!!」

「良いじゃない、結果オーライだったんだから」




それだけ言うとサレはさっさと踵を返す。
ミルハウストの注意も何処吹く風、と言った風に聞き流して。








「すまない…。あれでも実力のある隊員なのだが…」

「いーよ。助かったことには変わり無いし。まあ当たってたら…
黙ってなかったけどね



いつもと雰囲気の違うの声にジェイが見ると、笑顔のまま血管をピクつかせているがいた。



怒っている。



今まで一緒にいて、初めて見たのキレ顔。
そりゃあ人間なのだから怒ることはあるだろうけれども、それでもは温厚な部類に入っていたのに。




「ま、まあ兎に角僕達は僕達の目的を果たしましょう」


この場を流してしまおうとさっさと話を進めるジェイ。
も頭の中が今は怒りで一杯なのか、異議は求めなかった。


騎士団達が去った後、王立研究院へと向かった。















「あの、エヴァのジェイド・カーティス大佐の紹介で来たアドリビトムの…」
「ああ!伺っているよ。でも今博士が出てるんだ」
「博士…?」



受付の研究員にそう言われ、首を傾げる三人。



「ハロルド博士でしょ?博士一つの事に熱中すると周りが見えなくなるタイプでさあ。今もサンプルを取りに行ったまま帰ってこないんだ」

「ハロルド…?……まさか…ハロルド・ベルセリオス博士!?」
「ジェイ、知ってんの?あれ、ベルセリオスって…」

「そうですよ。僕達が乗ってきたイクシフォスラー、あれを造ったのがベルセリオス博士。ハロルド博士の曽祖父です」
「まあ…」
 


ジェイドから訪ねるように言われていた相手は確かにハロルドと言った。
本人がいないのなら仕方が無いと、三人は研究院を後にする。
宿屋で帰ってくるのを待つしかない。





「流石に夜には帰ってくるよなあ」
「けれど研究員の話しぶりではそれも判らないみたいね」
「ここで足止めですか…。仕方ありませんね。今までが順調すぎましたし」





宿屋にチェックインすると、各々個人部屋に別れ一休みすることに。

は部屋でテネブラエに詳しい話を聞いていた。






「なあ…、テネブラエ。オレ、マーテルから生み出されたって言ってもセンチュリオンの事も精霊の事も何も知らないんだ。教えてくれないか」
「そうですね…。確かに貴方には知る権利があります。…それでは世界の成り立ちからお話しましょうか」




















過去、世界は一度滅びを迎えた。

けれどそこに一人の精霊がマナを生み出す樹、大樹カーラーンを与えた。
マナは渇いた大地を潤し、森を育て、命を創った。

次にマナのバランスと保つ為にセンチュリオンが生み出された。
そしてセンチュリオン達のマナから形を持ったのが各属性の精霊達だ。




人間はマナを使って生きる術を覚えた。
マナで動く機械を発明し、生活の上でマナは必要不可欠なものになった。



しかし、その使い道も良いことばかりではなかった。


戦争時代、兵器や人を殺す為の魔術にマナを多く使うようになり、やがてはマナを巡っての争いが絶えなくなった。



生かす為のマナが、争いを生む火種となったことを精霊は深く嘆いた。


人々の流した血で大樹は枯れ果て、精霊から見放されたこともあり世界は再び滅びに向かう。






ある時一人のハーフエルフが枯れゆく大樹カーラーンの前に立ち、己自身のマナ全て解放し樹に注いだ。
ハーフエルフは、甦り新たに生まれた大樹の守り人として生まれ変わり、世界を守る精霊となった。







「それがマーテル様です」

「マーテルが…」







けれども新しく生まれ変わった大樹は、若い所為かマナを生み出す量がカーラーンより少ない。
それに関係なく人々はマナを消費し続ける。

研究者達が気付いた時はもう遅かった。

マナの純度が薄れ、大地が穢れていく所為で大樹も弱っていく事に。




そしてそれはこの世界にだけ言えることでもなかった。

他の世界でも同じ様にマナが薄れ、やがては滅びてしまうと言う世界が増え続けた。






「滅びた世界から来たディセンダー達は一つの存在によって集められました。その名は……ユリス」
「ユリス……」

「ユリスは悪意、失意、悲観、憤怒…負の感情の思念が形となったもの。世界が滅びたことにより嘆いたディセンダー達は引き寄せられるように集められました」
「…じゃあどうしてディセンダーは生まれるんだ?」



テネブラエは真っ直ぐな瞳でを見つめる。



「それは各々世界の精霊それぞれの考えですから私には解りません。けれど、マーテル様は世界を救わせる為に貴方様をお造りになったのではありません」
「?あれ…でも世界を救って欲しいってミュウが言ってたような…」
「それはチーグルの一個人の意見でしょう。マーテル様が言ったのではありません」



チラリと呑気に昼寝をしている聖獣を見る。
テネブラエは一瞥もくれなかったが。






「マーテル様は、短い人生を生きただけで残り全ての生を大樹に捧げたお方。

 貴方様に自分の代わりに世界を生きて欲しかったのだと思います」




「……っ」








ディセンダーは世界を守る者、リアラはそう言った。


けれどそれは強制されて、とかじゃなくて自分達が守りたいと思うから守るんだ。



だって、今オレは






この世界を守りたいって心の底から思ってる。